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農業×社会課題でつくる、豊かな社会と「代わりのないもの」【株式会社はたけのみかた代表 武村幸奈さん】

農業×社会課題でつくる、豊かな社会と「代わりのないもの」【株式会社はたけのみかた代表 武村幸奈さん】

今回取材させていただいたのは、株式会社はたけのみかた代表の武村幸奈さん。学生時代から農家さんと深く関わってきた武村さんが描く農業のあり方とは。「農業を通して消費者ひとりひとりの課題を解決していく」、はたけのみかたの哲学に注目です。

はたけのみかた代表・武村さん

学生時代から始まった、「農業」との繋がり

ー本日はよろしくお願いします!まず、はたけのみかたの事業について教えてください。

 よろしくお願いします。株式会社はたけのみかたは私が大学4年生の時に作った会社で、「食」と「農」を通して人々を豊かにすることを目指し、主に無農薬野菜を使った安心安全なベビーフード「manma」の開発・製造・販売・プロモーションなどを行っています。

 他にも、農薬や化学肥料を使わずに農業を営む生産者さんたちを紹介して出会いのきっかけを提供する「消費者 – 生産者つながり事業」、生産者さんたちをつなぎ、互いが交流・連携しあえる環境をつくることで新たな取り組みや新規就農者増に貢献する「生産者ネットワーク構築事業」も行っています。

無農薬野菜を使用した安心安全なベビーフード「manma」

ーありがとうございます!起業する前の学生時代、武村さんは学生団体「伏見わっしょい新党」を立ち上げたそうですが、なぜ農業でアプローチをしていたのですか?

 農業というよりは、食文化による地域の活性化に関心がありました。
 当初は、地域で食を使ったイベントなどを行うことを目標に活動し始めました。その活動の中で、実際に伏見区にどのような食があるのか学んでいくうちにたくさんの農家さんと出会いました。
 また、そもそも伏見区にたくさんの農家さんがいらっしゃる、ということ自体あまり知られてないなと感じました。
 農家さんの中でも、農法にこだわったり、高い志を持ってやられている方がたくさんいらっしゃいます。例えば、地球環境に配慮した農法を考えていたり、将来の子供のための食事を作っていきたいという想いがあったり。

 そういう方がいるということに気が付いたと同時に、そういった志ある農家さんの経営状態や栽培自体もすごく難しい現状であり、それが伏見区に知られていないという事実も知るようになっていきました。
 その事実に対して、勿体無さを感じたり、もっと価値の知られるべき農業なのではないか、という思いが徐々に募っていきました。学生時代のこの思いが、事業化に繋がっていきました。

ー武村さんは、起業を志してから2年後に起業されたと伺っています。志してから実際に起業するまでの間は、何か準備をしたりしていたのですか? 

 まず「起業」という選択肢を意識しだしたのは、就職することに対する違和感からです。私の先輩の世代が就職氷河期と呼ばれていて、全員黒髪にしてスーツをきて、何十件も面接を受けて、それでも入る会社がない…といった状況でした。そういうの実際に見ていると、「就職」という選択肢が自分にとっては必ずしも安定しているものではないなと思うようになりました。

 学部や人生の先輩の話を聞く機会がたくさんあったこともあり、自分自身で何か考えてやっていきたいという思いが大学時代の前半に芽生え、そのときには起業という選択肢をとろうと考えていました。
 そして、今やっている「manma」、離乳食のビジネスがまとまったのが大学4年生の春くらいです。やりたいビジネスがまとまるまでは、それまでは何が仕事になるのか?をずっと考え続ける大学生活でした。いろんなことを勉強したりビジネスアイデアをいくつも考えたりしていましたね。

伏見わっしょい新党・学生時代の武村さん(左)

「農業を通して社会の課題を解決していく」、はたけのみかたの哲学

ー大学4年生のときには起業を決めていたのですね。現在の主幹事業となっているベビーフード開発に決まった経緯は、一体どういったものだったのでしょうか?

 まず大切にしていたこととして、「農業を通して社会の課題を解決していくこと」がありました。
 農業って、守られる存在として語られることが多いんです。ですが、農業自体は強みをたくさんもっています。地球環境や景観を守ったり、文化の担い手であったり。ただ守られる存在ではなく、その価値を上げていくためには、農業が誰かの課題を解決していくことが重要だと考えました。

 そのうえでベビーフードにした経緯は、伏見わっしょい新党の活動で開催した野菜市にきっかけがありました。その野菜市は農家さんひとりひとりにフォーカスするもので、当時はSNSも発達していなかったので近所にビラをまくくらいの宣伝しかしていませんでした。
 その野菜市に、電車を乗り継いでわざわざ来てくれたお子さん連れのお母さんがいらっしゃいました。
 お話してみると、とてもパワフルで情熱的なお母さんでした。遠方からはるばるいらっしゃった理由を尋ねてみると、「子供が生まれたことで自分の価値観が変わった」「自分が食べるものはなんでもよかったけど、子供が生まれてからはこの子の食べるものを選べるのは私しかいない。子供にとって本当に安全な食とはなんだろうと考えるようになった」と仰っていました。
 それを聞いて、子供が生まれるということは人生においてそれほどインパクトがあることなんだ、と印象に残っていました。大学3年生のときですね。

 この経験が、4年の時にビジネスアイデアを考えているときに結びついたんです。子育て世代の困りごとを農業で解決することができないか、と思いました。子育て世代に焦点を当てれば、誰の課題を解決するよりもより効果の高い、結びつきの強い事業になるのではないかと考えました。
 農業×子育て世代について研究しているうちに、ベビーフードがあまり美味しくないことに気づきました。野菜のベビーフードなのにお野菜の味もしないものが多くて。どうして野菜の味がしないのかをベビーフードの大手起業さんに伺うと、「殺菌しているからどうしても野菜の味が薄くなってしまう」という回答をいただきました。
 その回答を聞いて、子育て世代のお母さんは気持ちよくベビーフードを使えているのだろうか、という疑問が生まれました。しかし、一方で少子化や共働き世代でベビーフードの売り上げ自体は伸びているんです。
 さらに調べていくうちに、お母さんたちは決してポジティブな気持ちでベビーフードを使っているわけではないということが明らかになってきました。
 こうしたいくつかの発見を経て、「農業を活かした、お母さんたちが安心して赤ちゃんに食べさせることができるベビーフードの開発」というビジネスアイデアに辿り着きました。

ーこれまで大変なことも多々あったかと思いますが、その中で一番達成感を感じたことはなんでしたか?

 ベビーフードの製造をしている際に、試食会を開いたことがあります。もちろん離乳食をつくったことはなくて、不安いっぱいで開いた試食会でした。
 そんな不安とは裏腹に、赤ちゃんがぱくぱくベビーフードを食べてくれたんです。赤ちゃんのお母さんからも、今までこんなにベビーフード食べたことない!という感想が出てきて。

 そのとき、すごく良いものがつくれたこと、それを諦めずに追求したことに対する達成感はすごくありました。
 ナチュラルな味覚をもってる赤ちゃんに喜んでもらえたことがとても嬉しかったですし、今後ベビーフード事業をやっていくうえでの自信にもつながりました。

「ワクワクすること」と「代わりのないものをつくること」

ーありがとうございます。学生時代から様々なことに挑戦されてきている武村さんですが、決定するときには何を大切にしているのですか?

 感覚人間なので、「ワクワクするな」とか、「みんなすごいって言ってくれるだろうな」とか、そういうポジティブな感情が糧になっていると思います。結局、これができたら楽しくない?とか、これができたら絶対インパクトあるし楽しいよね!みたいな気持ちを、起業するときもしてからも何かを決めるときは一番大事にしていると思います。
 さっきの話にもありましたが、事業内容を離乳食に決めたときも、他のもので良いものだったらだめ、これしかいらないって言ってもらえるものじゃないと意味がなくて、でも安心安全なベビーフードをつくってるところは当時まだなかったんです。だからこそ、「絶対にこれはいい!」という感覚があって踏み切れたと思います。
 もちろん、農業と関係の深い事業なので農家さんのトラブルを被るときもあります。作ったお野菜が全部鹿に食べられてしまったり、近年の天候がすごく不安定で野菜の出荷が読みづらかったり、順調に育たなかったりもします。 
 赤ちゃんが食べるものなので、衛生面には本当に気をつけていますし、何もかも勉強の連続で、終わりのない戦いです。難しく大変なことばかりですが、それ以上にこの会社や事業に感じている楽しさ、ワクワクは大きいです。だからこそ、こだわりぬいたものを届けたいとも思えます。

ー 学生起業に関して、利益を出しながら追い求められる人は未だ少ないと思います。そういう人に武村さんからアドバイスを送るなら、なんと送りますか?

 うーん、すごく難しい質問ですね笑。
 私たちの場合は、「求められるものを諦めずにつくった」ということがよかったのではないかと思います。
 他のもので替えがきくもの、一回買ったら満足のものではなくて、自分を助けてくれたり、自分の心を軽くしてくれるくらいの商品をつくりたいという気持ちが強くありました。リピートしていただけたり、ファンになっていただけるような、これじゃないとだめなんだ、と思っていただけるような商品づくりを諦めずに行うことが大切だと思います。

ー 「はたけのみかた」は、農業で社会課題を解決するという、守られるものだと思われているもので課題解決することで価値を高めていくという手法がすごく素敵だと思いました!現在の社会で、起業家やソーシャルビジネスが活発化するために重要なことは何でしょうか?

 そうですね、最近は起業される方も増えてきている印象はありますが、挑戦を阻む要因があるとするならば結局起業するという勇気が出ないというのはあると思います。
 自分が起業に踏み切れたのは、「もし失敗したらこれをやったらいいや」というのがあったからだと思います。私の実家がレストランをやっていて、もし起業に失敗したとしても、そのレストランの経営サポートを、社会課題を絡めて行う仕事をしたらいいかなと思っていました。もしこうなったらこうすればいいや、という気持ちが無意識に支えになっていたと思います。 

 実家のレストランは、社会の幸せはどうやったら実現するかという哲学のもと運営されているレストランなんです。私の曽祖母から始まったレストランですが、このレストランが地域にとってどういう意味が持つか、人が幸せになる接客とは何かを考えたりしていて。
 今振り返れば、そういう哲学をみながら育ったということが、自分の起業という選択に影響を与えていたのかもしれません。もともとそういうことをやりたかったのかも、と思うときもあります。

 もしかしたら学生時代に農家さんと出会っていなくても、そういうものを探していたかもしれないですね。
 ただ、自分の中では「農業を通じて消費者ひとりひとりの課題を解決する」守られるべきと捉えられているもので課題解決をすることでその価値をあげていく、というビジネスのロジックをすごく大切にしています。
 その内容自体が一番ワクワクしてもらえる部分だと思いますし、社会課題や起業に関心がある誰かのヒントにつながると思っています。

武村さんたちと農家の方々

企業情報

・企業名:株式会社はたけのみかた
・企業ホームページ:http://hatake-no-mikata.co.jp
・設立年:2014年・事業内容:無農薬野菜を使用したベビーフード「manma」を製造する商品開発事業を中心に、消費者と生産者のつながり創出事業や生産者ネットワーク構築事業も行う。
・その他リンク:
https://www.facebook.com/747168482040807/
https://instagram.com/manma_babyfoods?utm_medium=copy_link

この記事を書いた人

miyunagai

ライター、インタビュアー。日々耽るのは享楽、芸術は勉強中。希望ある未来と懐かしくなる過去をつくるべく、ゆるりと南船北馬。現在大学四年生。