ソーシャル企業として防災業界を切り拓くパイオニア【株式会社KOKUA 泉勇作さん】
今回取材させていただいたのは、株式会社KOKUA代表の泉さん。「防災業界」を新たに切り拓いていく泉さんの、ソーシャル企業の捉え方や防災の考え方について伺いました。
ゼロから生まれたサービス『LIFEGIFT』ができるまで
― 本日はよろしくお願いいたします!早速なんですけど、現在KOKUAで行っているLIFEGIFT事業について、どのようなきっかけで始めたのか教えてください。
もともと、防災業界で何か新しいアプローチをしたいと考えていました。
防災の現状としては、3,000名くらいのアンケートデータによると、「災害が起こる」や「(災害が)拡大する」と考えている人は90%近くいらっしゃるという数字が出ている一方、「何らかの対策は行っていますか?」という質問で「対策をしている」と答えた人は大体40%くらいの結果になっています。つまり多くの方は、災害が起こると思っていながら何も対策をしていないんです。
多くの人が「災害が起こる」と答えたように、災害は今後激甚化していくと研究では考えられています。例えば、ここ数年、毎年のように「例をみないような大雨」が報道されたりしていますが、それだけではなく、南海トラフや首都直下地震など、多くの災害が切迫していると言われています。皆さん準備をした方が良いというのは間違いありません。
しかしその一方で、アンケートの結果が物語るように、「分かっているけどなぜか防災対策ができていない」んです。それを解決するため、皆さんに防災のきっかけを提供したいという思いからゼロイチで生み出したサービスが『LIFEGIFT』なんです。
― ありがとうございます!泉さんがそもそも「防災」に目を向けることになったきっかけや経緯は何だったのでしょうか?
自分が神戸出身で、少し被災の経験があったということもありますが、一番は大学入学式の直前に東日本大震災が起こったことです。入学式の会場の前で大学生が募金活動をされていて、それを見て、「どうせ大学生になるんだったら、自由な時間も増えるし、社会勉強的な意味でも、自分が神戸で大震災を被災したという意味でも何かできることをしたい」と思ったのが始まりです。とはいえ、僕に限らずあの頃の大学1年生は、ボランティアをやったことのない方も含めて多くがボランティア参加していたので、自分もたくさんいる中の一人だったとは思うのですが…
ただ、ボランティア活動を続けられたのは、初めて行った東北のボランティアが自分の中で印象深かったからです。ボランティア活動の序盤は、体育館に集まる膨大な救援物資の仕分け作業を行い、服や日用品を分けたりしていました。最初は正直、肉体労働や地味な作業に戸惑いました。 活動が後半になるにつれて、被災地のリアルな光景に触れる機会がありました。そのときは気仙沼に行ったのですが、ショッキングな光景を見ることも多くありました。そのとき見た光景が自分の中で衝撃的で「災害救援だけは続けていこう」と思うきっかけになりました。
― ありがとうございます。泉さんは大学卒業後は人材系の会社に就職されていると思いますが、その当時も災害救援に関することをしたいと考えていたのでしょうか?
大ぴっらには言っていないのですが、社会人になった後も有給を取って災害救援に行っていました。なので、災害や防災に関しては常にアンテナは高かったとは思います。
それを事業化するかは「自分でどこまでやりたいか」という手段の話なので、社会人になった頃から思っていたわけではないですが、災害とか防災といった領域に対して、自分ができることはやろうっていうマインドはずっとあったと思います。
「ソーシャル企業」とKOKUA
― 現在は実際に起業されたわけですが、会社として今後の展望はありますか?
ひとつは、「ソーシャル企業とはなにか」を自分たちなりに定義付けていきたいと思っています。現在、ソーシャル企業として紹介される会社はたくさんありますが、「いったい何をもってその会社をソーシャル企業と呼ぶのか?」という定義が曖昧だと思うんですよね。僕たちKOKUAの中でも大事な定義があるので、それを成し遂げるために動いていきたいですね。
さらに具体的な話をすると、『もっと世の中に最適な防災グッズ』を作りたいです。これはもう動いていますね。商品開発をさらに進めて、KOKUAがそこの立ち位置を取りに行きたいです。
― 「ソーシャル企業とは何か」というのは面白い問いですね…!泉さんはどのように定義されているのですか?
いろんな定義があって良いと思うので、どちらかというと会社のメンバーや自分たちが納得できるかどうかだと思っているので、全ての人にとっての正解ではないのですが…
我々はいわゆる株式会社です。そして、株式会社の大きな目的は利益をあげることですよね。『価値貢献』や『ESG』といった言葉もありますが、利益を追求しないと存続していけないですし、株主に還元などもできないですよね。
一方NPO法人でいうと、NPOは稼いだ利益をいかに社会に還元するかが存在意義になるんです。だから利益をあげてはいけないという訳ではないですが、公益のためにどれだけ循環させるかが最重要になります。
そのうえで、ソーシャルベンチャーは、売上と同時に、「社会に対してどれだけのソーシャルインパクトを与えられたか」という指標に対してもコミットすることが存在意義だと考えています。なので、追いかけないといけない数字が2つあるのがソーシャル企業、社会企業なのかなと思います。
弊社で言うと、利益目標と同じくらい、「どれくらいの世帯数に防災のきっかけを届けれらたか」を重視し、カタログから注文しやすいような設計を心がけています。
お客様がLIFEGIFTを通して、防災グッズを注文することで、新たな防災のきっかけを作り出せればという意図で追いかけるべき数字だと認識しています。
ー ありがとうございます!では、KOKUAは何故株式会社として設立したのでしょうか?
「防災業界のパイオニアになるような、防災業界で働く人を増やせる会社にしたい」からです。
日本で「防災を普及させたい」と思った時に、まずは「防災業界を盛り上げたい」と僕は思っています。アメリカを例に出しましたが、防災業界のプレイヤーを増やすには、今プレイヤーで走っている人が恰好良くて、働く業界としても魅力的であるように感じていただくことが重要だと思っています。
なので、株式会社として、自分たちがしっかり利益もあげて、社会のためにやりつつも自分たちが楽しみながら仕事をしている姿を見せたいんです。「ここは悪くない業界なんだぜ」って笑。なので、こだわりをもって株式会社にしています。
防災のこれから
― 今後災害に備えて、LIFEGIFTも含めて「今コレを用意した方がいいよ」というオススメはありますか?
僕の中では防災グッズに対する2つの考え方があります。1つは命を救うための防災グッズ。もう1つは、命が救われたあとに避難所で快適に豊かに過ごすためのグッズです。
そして基本的には衣食住、中でも「食」が重要です。
コロナが流行したてのときも、東京の一部でコンビニにカップラーメン1個すらない…といった状況がありましたが、大規模災害が起こると本当にそうなります。まずは物資が来ないことを想定してください。
物資がないうえで、基本的にご年配の方や災害弱者と呼ばれる方が優先的に救助・配給されます。なので、まず水や食料を必ず確保することが重要です。
ただ、前者でいうと防災の笛などもあります。東日本大震災の時に瓦礫の下に埋まって防災の笛を使って助かったという事例もあるので、そう考えると笛も大事ですし。
本当に安くお手軽にできるものでいうと…シートベルトカッターや携帯ハンマーなどもあります。シートベルトカッターは、車両事故に逢い、すぐに車から出なければならないのにシートベルトが壊れてしまって抜け出せない状況で使うことができます。シートベルトカッ あとは、洪水が来て水が迫ってきてドアが開かない、出なきゃいけないという時は、携帯用ハンマーを使って脱出することもできます。
命を救うための防災グッズは言い出したらキリがないでしし、その人の住んでいる場所とか状況で変わってきます。
たとえば、眼鏡をかけないと1m先の視界も見えない方にとっては眼鏡・コンタクトレンズは超重要ですよね。都市部に住んでいる方は、避難所に行くまでにガラスの降り注ぎがあるかもしれないので、ヘルメットも重要です。
ミルクを中心に子育てされているお母さんもいらっしゃいます。災害が起こって、避難所にもミルクが備蓄していない場合、赤ちゃんの食べるものがなくなってしまいます。
このように、個人個人によって必要な命を守るグッズや用意は変わってきます。なので、自分にとって一番何が必要か?をよく考えたうえで備えてください。
―「分かっているのに防災ができない人に対して、「これからどのように広めていくかが、今後考えるべきです」とお話をされていたと思います。今後防災を普及させていくにあたって、大切なことは何でしょうか?
それは、常に探し続けていますね。
うちの会社の思想でいうと「『防災』なんて言葉がこの世からなくなればいいのに」とは思います。誰も全く意識していないのに、防災が完璧な状態になっていれば、みんながハッピーになるじゃないですか。意識していないのに防災がそこにある状態、というのを実現することが、一個人に対して無理矢理普及していくよりは重要だと思います。
たとえば先ほどの発想でいうと、日本の、特に都市部はマンションに住んでいる方が多いです。都市部は災害リスクに対してぜい弱だというのであれば、マンションには強制的に、マンションの住人全員分の備蓄を管理棟に置いてもらうような仕組みをつくるとか。
意識していないんだけども、ただ防災の状況は整っているというような環境が重要なのかなと思います。
「社会を良くする」という野望
― 今、社会に課題を感じたり、何かに挑戦したい人の数は増えてきていると思います。しかしその一方で踏み出せない人も多くいます。そういった方が一歩踏み出したり、挑戦するためには、どのような考えが必要だと思いますか?
『7つの習慣』とかでも言われていますし、僕の好きな名言にもあるのですけど、「諦めたことは亡霊のようにつきまとう」んですよね。きっと自分が死ぬ瞬間に諦めたことが「やっておけば良かったのに」と、声をかけ、肩を叩いてくるわけですよね。そのように思うならば「やった方がいい」と思います。
ソーシャルビジネスに携わって良いと思えることは、自分の命の使い方を知れるということだと思っています。無人島で一人で暮らしていれば別ですけども、人が社会と言う集合体の中で生きていくとすると、人は一人で生きてはいけないし、生きていけるような時代でもないわけですよね。誰かに必ず頼っている。その集合体の中で生まれているのが、「社会課題」なわけですよね。
それに対して、「何か貢献をする」「アクションを起こす」というのは、ひいては人類の為であったりとか、人の命につながってくるのだと思います。
自分が生まれてきて、必ず死ぬというゴールが決まっている中で、「何を自分は成すのか」「自分の人生に対してどんなビジョンを持つのか」と思った時に、お金を稼ぐことも、好きなことや趣味を極めることも素晴らしいし、どんな野望でも構わないのですけども、僕は、社会を良くすることは、特に素敵な野望だと思います。
この世界に生まれ落ちた理由というか、自分の命の使い方を知ったり、学んだり、実感できるのであれば、自分が挑戦したいって思ったことに勇気を持ってアクションを起こせばいいと思います。
ー ありがとうございました!
・企業名:株式会社KOKUA ・企業ホームページ:https://kokua-social.jp/ ・設立年:2020年 ・事業内容:防災サービスの企画 ・開発・販売・事業紹介(ひとこと):日本初の防災カタログギフト、LIFEGIFTを制作販売しております。2021年には防災グッズ大賞やグッドデザイン賞などで賞を受賞。「あなたの無事が いちばん大事」というプレゼントを贈る方の温かい気持ちが防災グッズと共に届く商品です。 ・その他:https://twitter.com/life_gift_kokuahttps://www.instagram.com/life_gift_kokua/ |