アーティスト支援を目指して、「アート×社会課題」への挑戦【エコアートアーティスト 綾海さん】
エコアートアーティスト、一般社団法人文化芸術循環機構エコアート、株式会社ArtArium。3つの顔を持つ綾海さんは、「廃材を循環させる」エコアートで環境問題に挑戦するアーティストです。目指したいのは「アーティスト支援」、そんな彼女が社会課題に挑戦する理由とは。
「やっぱり絵を描きたい!」独立後、エコアートアーティストになるまで
━ 本日はよろしくお願いします!まず、現在のエコアートアーティストの活動に至るまでの経緯を教えてください。
高校卒業までは長崎に住んでいました。中学、高校時代は美術部に入っていて、高校は佐賀県のデザイン学科がある高校に進学しました。その後東京のグラフィックデザインの専門学校に通って、在学中もデザイン事務所でアルバイトをしていました。その間も、絵は趣味として描いていました。専門学校卒業後は、もともとアルバイトをしていた会社に就職し1年程働いた後、現在はフリーランス兼画家として活動しています。
━ もともと、美術や芸術と繋がりが深いんですね。就職後、フリーランスで独立しようと思ったきっかけはありましたか?
「自分がやりたいことがグラフィックデザインとは違うかもしれない」と思ったのが理由です。働いていたデザインの会社ではロゴやホームページ、リーフレットなどのグラフィックを扱っていたのですが、仕事が激務で、趣味で絵を描く時間がほとんど取れませんでした。私は「やっぱり絵を描きたい!」という気持ちが強くあったので、独立してデザインのフリーランスとして働きながら絵を描く道を選んだんです。
独立してすぐの頃は、収入の割合はデザインのほうが高かったのですが、現在は絵のほうが高くなっているので、徐々に絵を描くことを仕事にでき始めていますね。
━ そうなんですね!絵を描くためにフリーランスになった後、現在はエコアートアーティストとして活動されてると思いますが、エコアートをやろうと思ったのは何故なんですか?
まず、エコアートとは廃材を循環させ、アートで新たな価値を生み出すことです。このエコアートを扱うエコアートアーティストになろうと思うようになったきっかけは2つあります。
一つ目は、ペライチ創業者の山下さんという方が沖縄で主催した環境問題のシンポジウムに参加したことです。そのシンポジウムで地球環境について学ぶ機会があり、「エコ」や「SGDs」といったことに興味を持つきっかけになりました。
二つ目が、岐阜県で切り株に絵を描く機会を頂いたことです。岐阜で林業をやられている小森さんに、森に絵を描いてみないか、とお誘いを受けました。切り株に絵を描く際に、動物が舐めても大丈夫で、木が生えなくならないような自然にも優しい絵の具にしないと、と考え絵の具についてよく調べました。またこの時、一緒にデザインの仕事をしていた伊藤さんという方に「現役アーティストがアーティストを食べさせていけるような仕組みをつくれると面白いかもしれない」と、自分がやりたかったことのヒントをいただました。
活動の中で多くの方に支えられながら「地球にある資源を無駄使いせず、地球環境に優しい画材でアートが作れないか?」という方向性を見出すことが出来ました。
この2つの出来事がきっかけとなって、「エコアートアーティスト」という道を選ぶことになりました。
アートで社会問題に挑戦する「エコアート」
━ そんな経緯があったのですね!先日、「エコアートの一般社団法人」を立ち上げたと伺いましたが、エコアートの一般社団法人ではどのようなことを目指しているのでしょうか?
実は、根本的にやりたいことは「アーティスト支援」なんです。自分自身がアーティストをやっていることもあって、今のアーティストが仕事として成立しない、それだけでは食べていくことが難しいということに課題意識があります。
では、一体どのような社会がアーティストが仕事として成立する社会なのかというと、「みんなが豊かな社会」、悩みや課題がない社会なのではないかと思ってます。絵画をはじめとした芸術作品は、気持ちやお金に余裕がないとなかなか手を出すのが難しいからです。
なので、今はまず、自分が出来るアートの分野で社会を良くする活動に全力で取り組みたいと思っています。その結果、行き着いたのが「エコアート」です。
もともと、廃材からアートを生み出す活動を指す言葉として使っていたのですが、今は考え方を変え、「廃材を循環させる」という概念のことを「エコアート」と呼んでいます。
エコアートを始めるにあたってゴミ問題について勉強したのですが、ゴミ問題はすごく奥が深くて、突き詰めていけば「ゴミがゴミになった理由」が必ずありました。
例えば、ヘドロ。ヘドロは何故生まれたかというと、生活排水や温暖化が影響してプランクトンが死んでヘドロになっているんです。ヘドロをアートにするのは簡単ですが、ヘドロからアートを生み出すのではなく、ヘドロをなくす活動をアートで訴えるのが、私が考える「エコアート」です。問題に対してその原因を考え、作品を観た人たちが根本的な課題を解決できるような行動を起こしたり課題について意識を向けるきっかけを作ることがエコアートの役割だと思っています。
あとは、「飾りたくなる絵を描く」ということにもこだわりがあります。見る人が純粋に素敵だと思って見つけたら、実はその絵に社会的な意味が込められていた、とような絵です。そういう絵をエコアートを通してつくるために、昨年「ArtArium」という廃材から絵の具をつくる会社を立てました。今、全国を旅しながら絵の具化ができる素材を探している最中です。
各地でもらった廃材を、何十種類も実験し手間をかけて綺麗な色が出る絵の具にしているので量はたくさん作れないのですが、私と同じように何か社会に啓蒙活動をしていたり、メッセージ性の高い絵を描いているアーティストの方に使って頂きたいです。
不安や悩みがあっても、前に進む
ーありがとうございます!エコアートの一般社団法人だけでなく、株式会社も設立されたのですね。色々な活動に挑戦されていますが、不安や悩みなどはないのでしょうか?
もちろん、たくさんあります笑。踏み出せば踏み出すほど悩みが増えていきますね…。私自身、経営に興味が強かったり向いているわけではないと思っています。それでも、どうしてもやらざるをえなかった、誰もやっていないから頑張っている、といった感じです。
もともと人にお願いするのが苦手で、全部自分だけでやろうとして忙しくなってしまったり、今度クラウドファウンディングを実施するのですが、本当に自分が応援してもらえるのか不安だったりします。一般社団法人も会社もまだ立ち上げたばかりですし、多忙で絵を描く時間がなくて、もともと自分がやりたかったことを見失いそうになることもあります。
それでも、自分が良いことをやっている自覚や、事業に対する自信はあるので、胸を張って活動しています。
よく「何故そんなに頑張れるの?」と聞かれたり「女の子1人で若いのにすごいね!」と言っていただくこともありますが、私の考え方は、「やったほうがいいから、やりたいからただ行動する」なんです。どちらかというと、やりたいこと・やるべきことがあるのに行動をしない自分というのがイメージ出来ません。
もちろん、やりたいことをやるうえで思うようにいかないことは辛いですが、全く先が見えないわけでもありませんし、やり方はたくさんあると思っています。エコアートアーティストとしての活動、文化芸術循環機構エコアート、ArtAriumの3つを動かしていくのは大変ですが、自分がやりたくてやっていることなので、今後も色々なことに挑戦していきたいです。
ー やりたいことに真っ直ぐで、素敵だなと思いました。やりたいことや挑戦したいことがあるのになかなかできない人も多くいると思いますが、そういった人が踏み出すには何が必要だと思いますか?
「課題について知ろうとすること」と「自分を応援してくれる人のために行動すること」、この2つだと思います。
まず「課題を知ろうとすること」ですが、私自身、エコアートを始める前はヘドロが何故発生するのかや、社会のゴミ問題が何故起きているのかは考えたこともありませんでした。しかし、エコアートを始めてからは、目の前の問題には必ず原因があるのだと思うようになりました。それはゴミ問題以外も同じです。「何故この問題が起きているのか?」を知れば、根本的に何を変えれば良いのかヒントが見つかるので、アクションに繋がるのではないでしょうか。
次に「自分を応援してくれる人をのために行動すること」です。廃材を集めに全国を旅する中で、たくさんの人に出会いました。そこで出会った方々の話を聞いたり、自分の想いを話していくうちに、相手の想いにも共感しましたし、「自分の想いにも共感してくれている」と確信を持てるようになりました。何かに挑戦したい、応援してほしいと思ったときに、自分を応援してくれる人がいると確信が持てることが、一歩踏み出すための支えになると思います。そのためにも、自分を応援してくれる人、助けてくれる人をのために心から行動を起こしていくことが大切だと思います。
「エコアート」のこれから
━ ありがとうございます。最後に、今後目指していきたいことや、やりたい活動について教えてください!
今はエコアートアーティストとしての活動、文化芸術循環機構エコアート、ArtAriumの3つの活動をしていますが、まずはエコアートの仕組みづくりをしようと思っています。先ほども言ったようにエコアートは「廃材を循環させる」という概念なので、エコアートを「廃材を生み出す人と、廃材を価値に変える人をつなげる」役割を持った団体にしたいです。今はエコアートアーティストとしての個人の活動やArtAriumもそこに入っている形になっているので、これから会員の方を増やしたり、仕組みを整えて、多くの人をつなげる場にしていきたいです。また、作られたアート作品が、作品として生まれるまでで止まってしまわないように、作品自体も大きな循環の一つになるよう次の循環への仕組みづくりをしていくつもりです。
あとは、エコアートからあらゆる課題を解決できるようになることを目指したいです。もちろん社会課題はゴミ問題だけではありませんし、今はまず環境問題、ゴミ問題から解決していきたいという気持ちはありますが、ゴミから派生した社会課題は山のように存在します。それは、ゴミ問題を解決することで、派生するあらゆる社会課題を解決することができるという可能性かもしれないと思っているので、将来的にはゴミ問題だけでなく、あらゆる課題に対してもアプローチできるようになりたいです。
━ 綾海さん、ありがとうございました!
企業名:アトリエ綾海 設立年:2019年 事業内容:画家 事業紹介:人のために作る「デザイン」と自己表現の「アート」を融合させた作品づくりをしています。私の作品を通して、別の世界を観て、その先を想像して、冒険してもらえると嬉しいです。 HP:https://atelier-ayami.com Instagram/Twitter:@ayami_ecoart |
■編集後記
こんにちは。今回取材を担当させて頂いたmiyunagaiです。
今回は「アーティスト」という、今までとは少し違った切り口での取材になりました。
私自身、最近絵の勉強をしたりしている関係もあって、今回の綾海さんのお話は関心があることばかりでした。アーティスト支援のビジネスモデルづくりの話ももちろんですが、「人が喜ぶ絵を描きたい」という言葉が特に印象的です。
「誰かに喜んでほしい」という気持ちを持って何かをすることって、改めて振り返ると日常であまりないと思うんです。迷惑をかけたくないとか、課題を解決したい、みたいに思う反面、その先にある「誰かに喜んでもらう」ということを日々忘れがちだったなあと思います。
今回の綾海さんの取材は、そもそもの目的が「社会課題の解決」ではなく「アーティスト支援」にあるところが面白いと感じました。「社会課題の解決」が手段となって、もっと別の目的やその先を見ていらっしゃいます。普段忘れてしまいがちな、「結局誰にどうなってほしいのか、誰を喜ばせたいのか」を意識するきっかけをいただきました。伺ったお話も、とても素敵な内容です。皆さん是非ご覧ください!