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私の彼

私の彼

ヤンキーだった彼と警察官だった私が結婚した時、彼の地元では衝撃が走り、
「留置場で知り合ったのではないか」とまことしやかな噂が流れた。

確かに彼は見た目に怖い。身長185センチで鼻頭に刀傷があり、付き合い始めた時には金のネックレスとブレスレットが光っていた。どこに居てもよく目立ち、名の知れた人だった。

そんな彼とは高校の同級生。3年間同じ教室で過ごしたが、窓際族の私とはジャンルが違い過ぎて接点などあるはずもなかった。当時彼はイライラしてよく怒っていた。突然学校に来なくなることもあった。知っている人達だけが知っている世界で彼は生きていた。同じ学校に通っているのに、まるで別の世界だった。私は不思議で仕方が無かった。何がそんなにイライラするのか・・・私の無知さ加減の方が半端なかった。

なので直接彼に聞くことにした。何がそんなに腹が立つのか。

「何がそんなに腹立つの?」

彼はびっくりしたのだろう。窓際族の私から突然質問されて、”俺の状況を説明してこいつにわかるのか?”的な可笑しさがあったのかも知れない。彼は満面の笑みで何も答えなかった。

それ以降、彼は私にちょっかいを出し始めた。男子ばかりの教室に一人閉じ込めてみたり、廊下を歩く私を一人通せんぼしてみたり・・・。ひぃぃぃ~と焦る私を見て楽しんでいた。

卒業後、同窓会を機に、何故か彼から電話が来るようになった。郷里を離れた私へ、彼は遊びのひとつだったのだろうが、男性慣れしていない私は、彼が私に好意を寄せているのではないかと勘違いをした。次第に慣れない土地で警察官をしていた私にとっては、ほっとする存在になった。

勘違いから交際に発展し、半年後には結婚をしていた。

何がどうなってそうなったのか!!!と地元で大騒ぎになったのは言うまでもない。

見た目とは違い、彼はとても心根の優しい人で、どこまでも私を大切にしてくれた。「あなたにそれは似合わない」の私の言葉で、お気に入りだった金のネックレスやブレスレットも早々に手放した。ギャンブルするお金があれば、家族で美味しいものが食べられるとパチンコも止めた。3人の子供に恵まれ、子煩悩で働き者で、お金に苦労して育った私を気遣い家計を握り、自分が食べなくても私に食べさせてくれる人だった。

あれから29年。

ヤンキーだからと相手にしてくれない人も居た彼だったが、立派な社会人として地域から愛され、頼られる人になった。可愛い子供たちは皆それぞれ4年大学を卒業し、私たちの元から巣立っていった。

そしてーーー私たちはまた2人になった。

相変わらず、彼は私の知らない世界を持っているが、私は私だけしか知らない彼を知っている。彼を幸せにするのが私の仕事。この先も2人で一緒に歳をとっていこう。

仕事から帰ってくる彼に、「お帰りなさい♡あなた、寂しかったわぁ♡」とまとわりつき、「気持ち悪っ」と笑われる毎日を。これからも。

彼を愛し続ける事。それが私のちょっといいこと。

この記事を書いた人

ぐこりん。

父が障害者、母がギャンブル依存、貧困、暴力、不仲等、機能不全家庭に育つ。借金と孤独から父が自殺。経験してきた中から生まれた疑問「なぜ女性は状況を悪化させる選択ばかりするのか」。疑問を解決する為に長女が大学進学のタイミングで自身も通信で大学進学。元警察官。現在、精神保健福祉士、社会福祉士。精神科病院のPSWとして勤務している。