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「ここにしかないもの」をつくる 【オリジナルアパレルブランドdidi 加藤園雅さん】

「ここにしかないもの」をつくる 【オリジナルアパレルブランドdidi 加藤園雅さん】

今年で創業18年を迎える「didi」は、ネパールに工場を構え、途上国に貢献するエコフレンドリーでフェアなオリジナルアパレルブランドです。今回インタビューをさせて頂いたのはチーフデザイナーの加藤園雅さん。加藤さんがネパールに工場を構え続ける理由や、その根底にある想いとは。

チーフデザイナー加藤園雅さん・左から4番目

「ここにしかない」にこだわった、オリジナルブランドdidi

ーdidiの特徴はありますか?

日本にはない、現地の素材を使っています。インド文化圏の伝統衣装であるサリーを使った製品は、didiの最大の特徴でありロングセラーです。例えば、足袋やパラソルカバーはお客様の声から生まれたものです。お客様の声から商品が生まれることも、didiの特徴です。また、コロナ禍に入ってからは、スカートやパンツなどを作った残りの端切れからマスクを製作しています。

また、最近はパシュミナ製品にも力を入れています。パシュミナとは、ヒマラヤ山脈に住んでいるヤギの種類のことです。飼育することが難しく、採取量が少ない貴重なヒマラヤ山羊の柔毛を使って作られているのが特徴です。現地では工場の継続が厳しいという現実もあるのですが、現地の優れたものを日本の方にお求め頂くためにこだわって作っています。

ー事業内容を教えてください

didiは始まって今年で18年になる、オリジナルアパレルブランドです。デザインから布地選び、生産管理、輸入通関まで全てを独自でやるこだわりのブランドです。また、エシカルビジネスにも力を入れています。対等な関係で現地スタッフに働いてもらっているだけでなく、天然素材の使用とリサイクルを徹底しています。発展途上国に貢献するエコフレンドリーでフェアな事業を行い、誇りを持って社会に貢献するアパレルブランドです。「didi」という名前はネパール語で「お姉さん」という意味で、ネパールのスタッフに「didi」と呼ばれていることから名前をつけました。

実は最初はソーシャルビジネスを想定して始めた事業ではありませんでした。しかし、事業が拡大するに連れて意味のあるものをつくっていきたいと思うようになり、オリジナルの製品を作るようになりました。リサイクルのサリーを使用したアパレルブランドで、環境にも配慮した珍しい商品を作っていると思います。

パラソル

エスカルゴスカート

ーdidiの商品ができるまでの流れを教えてください。

お客様の声をきっかけに商品ができることが多いです。お客様から頂いた意見をもとに、ネパールの工場で現地のスタッフと打ち合わせをして商品を作っていきます。商品のアイデアやコンセプトなどは日本で作成し、商品の作成から輸出まではネパールで行っています。また、現地スタッフは皆ネパール人で、中にはご夫婦で働いている方や、学校に行きながら働いている方もいます。商品の中には、現地のスタッフに名前をつけてもらったものもありますよ。

現地工場の様子

魅せられた「ネパール」という国、創業までの軌跡

ー創業のきっかけや想いを教えてください。

最初はオリジナルの製品はつくっておらず、輸入販売を行っていました。福岡でカフェ&雑貨というコンセプトのお店を営んでおり、タイのチェンマイによく買い付けに行っていました。そこで見たネパールの商品の繊細さや拘り方が他のアジアの国の雑貨と違うことに驚いたことが、ネパールとの出会いです。ネパールでは、綺麗な素材や製品に本当に魅了されました。ネパールに実際に赴き、ネパールの装飾品を目にしたことがきっかけで、このネパールの美しいものを使って日本で何か商品を作ることができないかと思ったことがdidiの始まりです。現地の人々との関わりが深くなっていくうちに、ここでならやっていけるだろう、と思ってネパールに工場をつくることを決めました。分かり合えるような関係性が築けるような温かさがネパールにはありましたね。

ー苦労したことや、難しかったことはありますか。

現地スタッフが思う商品の基準と、日本で求められる商品の基準が違うことですね。国際的なビジネスモデルだからこそ、日本のお客様が求めるレベルを現地スタッフに理解してもらうことが本当に難しいです。それから、インフラが整っていないことも課題です。道路が整備されていないため期日までに材料を運ぶことも難しいですし、政治が安定していないのでバンダ(ストライキ)が起きて外に出られないときもあり、思い通りにいかないことばかりです。特にインドとネパールの国境が封鎖したときは本当に大変でした。国境封鎖によって、生産に関わる材料はもちろん、現地スタッフの生活に関わる物資が入ってこない状態が約半年続きました。ネパールは日本のように予定通りに計画が進む環境ではないので、大変なことは山積みです。でも現地スタッフも頼りにしてくれていますし、日本のお客様にもファンが増えてきたので、その期待に応えていきたいという想いで頑張っています。

ー雇用支援という面で、didiの工場が置かれたことで現地の方に変化はありましたか?

「支援」という面では、実はあまりありません。現地スタッフには雇用支援というよりは、didiのスタッフとして対等な立場を築くことを大切にしているからです。一つの製品を作る仲間である以上、ネパールであろうが欧米の国であろうが関係ないと思っています。もちろん、ネパールは途上国のため、環境が整っていないという不利な点はありますが、美しい装飾品と暖かい人にやはり魅力を感じるので、工場を構え続けています。継続して雇用を作り続けるためにも、日本で売り上げを安定させていくことができたらいいなと思っています。

現地スタッフの方と加藤さん

ー日本のお客さまはdidiの商品のどこを気に入っていらっしゃいますか?

他のブランドにはない物が売っている点ですね。パラソルや足袋は商品として珍しいですし、サリーを使った商品は一点物が多く、同じものがありません。また、サイズ展開を変えてほしいなどの細かいニーズにもお応えすることもあり、小さい企業だからこそできる、お客様の声の近くにいる点を気に入って、通ってくださるお客様が多くいらっしゃいます。

didiがめざす、「オリジナル」な未来

ーdidiの事業を通して、目指していきたい社会はありますか?

「循環していく社会」です。例えば、リサイクルサリーを製作する際には、資源の面でも循環を意識しており、現在はサリー1枚でどれだけの製品をつくることができるかにチャレンジしています。

また、金銭的な面では、didiの商品ができる過程で現地スタッフがつくった商品が日本のお客様に受け入れられて、そのお金が途上国であるネパールに行って、また現地で製品がつくられて…という、国を超えた循環を目指しています。

ー読者の方に向けてメッセージをお願い致します。

個人的なことにはなりますが、didiを立ち上げる前はこの仕事をするとは思ってもいませんでした。若い頃に左目を事故で怪我をしたとき、たくさんの人に助けられたことがきっかけで、「自分を助けてくれた人に恩返しをしたい」、「世の中に役に立つ人でありたい」という想いが強くありました。当時そう思えたことが、今didiで商品をつくっている根幹になっていると思います。人生に困難はたくさんありますが、年齢は関係なく、状況を変えていこうとする想いや、未来に対する意思があれば色々なことに挑戦できると思います。

ーありがとうございました!

【会社情報】
会社名:株式会社didi
設立年:2003年
HP:https://didi.co.jp
商品購入はこちらから:https://didi.fashionstore.jp/

■編集後記

こんにちは。取材を担当させて頂いたmiyunagaiです。

インタビュワーとして取材を進めていく中で、途上国を巻き込んだビジネスモデルのあり方について考えました。

グローバル化がすすみ、GDPで各国の経済状況が浮き彫りになる昨今では、先進国と呼ばれる国々でODAやボランティアなどの取り組みが熱心に行われています。日本もミャンマーに支援金を出すことがついこの間決まるなど、その手の活動には積極的な印象が個人としてあります。かくいう私も、南アジアへボランティアへ行っていた経験があります。

私が過去、心のどこかで感じていたのは、ノブレス・オブリージュの思想でした。「持つ者」が施すことで世界は巡ってゆくのだと信じていましたが、実際は真逆で、自分は何も持っていなかったと気づきます。経済や生活という目に見えるものは「持って」いましたが、心の優しさ、暖かさは「施される」側だったのです。

この度の取材ではそんなことをふと思い出しました。

didiはビジネスモデルとして途上国の雇用支援の側面こそ持っていますが、何よりネパールという異国の美しさの魅力を大切にしています。美しさが詰まった製品を日本に届けるために、一人のビジネスパートナーとして対等に現地スタッフと向き合っています。

途上国を巻き込んだビジネスモデルは、表面上は良い体裁ですが、事実上は搾取や一方的な施しばかりといったものも少なくありません。そんな中でdidiの製品ができる過程や、チーフデザイナー加藤さんの想いは、改めて私たちにこれからの途上国を巻き込んだビジネスモデルのあり方を考えさせてくれます。

もちろん、助ける必要がある人を助けることは重要ですし、それこそがノブレス・オブリージュとして取り組まれるべきだと思います。しかしこれから日本の経済活動は後退すると言われていて、展望の予想がつきません。施すでもなく、救済するでもない、didiの対等に途上国を巻き込んだビジネスモデルは、そんな予測不可能な未来に進んでいく私たちにとっての光の一つになるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

miyunagai

ライター、インタビュアー。日々耽るのは享楽、芸術は勉強中。希望ある未来と懐かしくなる過去をつくるべく、ゆるりと南船北馬。現在大学四年生。